営業とは、物を売る商売ではなくソリューションビジネスである。営業と販売は混同されることが多いが実は全く異なり、販売は売れる物を売りさばくことであり、営業は営利や利益を目指して行う事業である。 (理事 津田晃)
日本電産㈱代表取締役社長永守重信氏は「世界一安くて性能が良く、絶対に壊れない物を作れば、営業マンは要らない」と言われたが、その通りだと思う。
また、給料を払ってくれるのはお客様であることを理解していなければならない。お客様が払ってくれているのだから、お客様のために一生懸命働くのは当たり前のことである。
1.修
人の成長段階を分かりやすく表した言葉に、世阿弥の「修・破・離」がある。企業では、「修」は自己研鑽に努力する、「破」は経営レベルで行動する、「離」は業界や日本経済を考えるレベルとなろう。
人間は、能力の差はあっても3倍程度だろうが、意欲には100倍の差が出る。私は営業目標の達成には持続力が必要だと思っているが、まさに持続力は意欲によって培われるもので、「修」のステージでは必要不可欠と言える。
石川遼選手とイチロー選手が小学校卒業時に書いた作文をみると、目標が極めて明瞭であり、夢を実現するために何をしなければならないかが非常に具体的に示されていることに気づく。
また、アメリカのコーチング協会がトップビジネスマンに成功の理由を尋ねたところ、7割がOn the Job Trainingと答えた。OJTなら行っていると言われるかもしれないが、On the JobはしていてもTrainingができていない会社がほとんどである。Trainingでは、たとえば10の仕事を12にして負荷を掛け、いろいろなことを吸収していく。
1996年に前人未到の七冠を達成した羽生善治は、強さの秘訣を聞かれて「三流の人は人の話を聞かない。二流の人は人の話を聞く。一流の人は人の話を聞いて実行する。超一流の人は人の話を聞いて工夫する。私はまだ超一流ではない」と答えた。そして「一つのことを継続して出来る人間が優秀な人間である」と言った。
このように、目標に向かってOn the Job Trainingの中で負荷を掛けながら持続的に自分を磨くのが「修」の段階なのである。私は『四季報』を毎日3ページ12銘柄ずつ暗記し、本間宗久の『酒田五法は風林火山』を熟読した。
2.破
「破」の段階、つまり経営職になると、部下を磨き、組織を動かしていかなければならなくなる。このステージで必要とされるのが「三現主義」と「三切り」の思考である。「三現主義」は本田宗一郎氏がよく使った言葉で、問題が起こったら現場に行って現実と現物を見る。これは人を育て、問題を解決するのに非常に役に立つ。「三切る」は大学の教授から教わったことで、「人生には三切りが必要。踏み切ったなら割り切ってやってみろ。それで駄目なら思い切ればよい」というもので、私の行動指針になっている。
また、この時期、「駑馬十駕」という考え方も欠かせない。駿馬は一晩で千里走るが、駑馬でも10日あれば千里走ることができる。すなわち「功を焦るな」ということである。日本には創業200年以上の企業が3,500社、100年以上なら5万社もあるが、いずれも過度な成長を求めないで今日まできている。
王選手を育てた荒川コーチは、パンツ1枚でバットを振らせたそうだが、裸になると無駄に力を入れている箇所が分かる。私も部下を育てる時にはお互いの弱い部分を出し合う、裸の付き合いを心掛けているが、人を育てるにはそこまで絆を深めて真剣に向き合わなければならない。元・野村證券㈱代表取締役社長田淵義久氏は12の能力を持つ人が11しか発揮していないと叱り、3の能力しかない人が4頑張ればすごく褒めていた。これは部下の能力を正しく把握しなければできないことで、深い絆を必要とする。
3.離
「離」の領域で必要とされるものは、心臓外科の権威であった榊原仟教授が提唱された「若さを保つ五箇条(好奇心・投機心・歩くこと・色気・腹七分目)」に当てはめると分かりやすい。
企業も人間も、常に好奇心を持ち、然るべき時には何かに賭けて、情報を集め、魅力的で、且つ常に節度を持っていなければいけない。
また、「離」のステージの人間には、変える勇気(変革)と変えない勇気(伝統)が求められる。南極大陸横断を試みた英国の冒険家のアーネスト・シャクルトンは、27人の部下と共に1年8カ月間の漂流の末、無事帰還するが、それは彼が栄光を目前にしながら人命を優先して引き返すという勇気ある決断を下したからであった、その結果ナイトの称号を得た。
4.結び
朝日新聞の「日本の百年企業」に、長寿企業の経営者が大切にしている信念を表す漢字一字が多い順に、信・誠・継・心・真・和・変・新・忍・質として挙げられている。利や商、儲という文字は入っていない。このことは、我々が仕事をしていく上での大きな示唆となるだろう。
顧客ニーズはクレームから拾うことができる。アドボカシーマーケティングを基本に、お客さまから磨かれる営業であってほしい。
津田理事が一般社団法人「企業研究会」(Business Research Institute)で行った講演を御許可を得て転載しました。