8月4日、日本経済新聞は朝刊のトップ記事で「日立・三菱重工 統合へ 13年春に新会社 世界受注へ巨大連合 売上高12兆円超」と掲載した。その後両社は、そういう事実はないとか、まだ話合いの段階とか、スッパ抜きへの対応に追われたようである。誤報なのか、勇み足なのかは不明だが、記事に書かれていた「アイディア」は全く正鵠を射るものであり、日本の企業経営の成熟化を示す象徴的なものと思われる。すなわち (理事 早川成信)
●成長戦略を軸とした行動…「選択と集中」が進み、更なる成長のエンジンを求めた
●M&Aが通常の経営行動…設備投資・研究開発投資と同じ「投資」である
●“しがらみ”(系列)を超えた行動…旧財閥は完全に過去のものとなったか…
そして、国内市場の飽和を見越した“合従連衡”は最終局面迎え、M&Aは新らしいステージに入ったという意味でも象徴的な出来事(事実であるとすれば)と云えよう。これまでの、M&Aをパターン別に見ると
●戦後…旧財閥系の再統合…新日鉄/日本製紙/川崎重工etc
とにかく昔に戻る…銀行中心の旧財閥グループ化も
●第1波…80年代央~90年代…素材産業による「規模の経済」追求
鉄鋼(JFE)/紙パルプ/セメント/化学etc
●第2波…90年代央~後半…金融再編成
銀行/保険(特に損保)/証券
●第3波…90年代後半~ …M&Aの一般化
①成長産業に於ける競争力強化…医薬品/半導体/通信etc
②規模の経済追求(顧客構造の変化に対応)…卸/石油
③衰退産業に於ける生き残り(ないし残存者利益)
…小売(特に百貨店)/地銀/食品/多くの内需型産業
●第4波…2000年代央~ 「選択と集中」の定着
①成長領域の強化…キリン+協和発酵/パナソニック+三洋電機
再生可能エネルギー;環境関連;新サービスetcが今後の注目領域
②国内市場の飽和を見越した動き…日立+三菱重工/新日鉄+住友金属
海外市場での国際競争力を強化・・・今後自動車が台風の目か
③海外での大型買収…食品/薬品/精密機器/資源
これからは、日本市場も「グローバルの一環」と位置づけられよう
とはいえ、今後の道のりは厳しい。PMI(Post Merger Integration)は非常な困難を伴うと思われる。
①どの部門を統合するか…「電力」「機械」「動力」…どちらが主導権を握るのか…
多分、IT/通信を核とする?・・・電子部品は?家電/自動車部品は?
全くダブラない航空機/化学/金属/金融 などはどのような形態になるのか?
②自由度の高い「連邦型」経営体制を敷いたとしても…
両社の「優先事業領域」が異なる…資源配分をどうする?
企業文化が全く異なる…日立=野武士vs三菱=上流社会
したがって、管理手法がまるで違う…日立=ボトムアップ型vs三菱=?
両社とも多くの子会社を持つ。特に、海外子会社管理はさらに困難を伴う
などである。両社とも「名門」であるだけに難しさは並大抵なことではないだろうが、何とか仕上げてもらいたいものだ。
この統合が実現すれば、産業界に多大な影響を及ぼそう。例えば、関連業界では、玉突き現象、すなわち更なる「経営統合」もありうる。重電・機械など「新会社」の主要事業領域にとどまらず、例えば自動車部品・化学など周辺事業、あるいは、参加企業数が多すぎる事業領域などで、再編成が起きる可能性が強い。また、産業界全般については、「集中と選択」さらに進み、更なる「分離・統合」が加速するように思われる。そして、この過程で「分離された事業部門」を統合して競争力を強めようという「日本電産型」企業も登場しようし、MBOのチャンスも多く訪れるように思われ 一方、「産業の空洞化」が更に進むこととなろうが、それは企業行動として当然なことであろう。また、海外でのM&Aが更に活発化することになろう。
今回の出来事を、日立・三菱重工という「大企業の成長戦略」として捉えるなら、「キリンvsサントリー」のように「幻」に終わって欲しくないものである。
(2011年8月4日記)