未曾有の大地震・大津波から40日が過ぎたが、復旧どころか救済すら進んでいないように思われる。被災直後の救助は速かった。しかし、その後の救済・復旧活動は遅々として進まない。避難所での集団生活は続き、被災者の収入への道筋など全く進んでいない。日が経つにつれ、救済・復興活動の司令塔の不在、優先順位付けの不在などの咎が出てきたように思われる。被災地が広範囲の上、津波により街並が瓦礫と化してしまったことや、原子力発電所の事故という余計な災害(・・・これが一番やっかいなのだが・・・)が重なったことを差し引いても、現在の政府・東電の対応はオソマツ極まりない。 (理事 早川成信)
クライシス・マネジメントの鉄則については前に書いたが、現実の対処については、戦場における対応に似たものが要求されるハズである。①優先順位をつける、②画一的な対応を止め状況に応じて臨機応変に対応する、そのためには、③現場の判断を最重視する、④状況によっては超法規的な対応も許すー手続きなどを踏まえたら時を失する、そして、⑤正しい優先順位付けを担保するために③を含めて情報を集約する、更に、⑥今回のような甚大な被害の場合は、現況・計画(予定)・進捗状況を各地の被災者に正しく伝達する、などである。
ところが、随所に順序が後先になっているように思われる。いくつかを列挙すると
●被災者を救助し避難所等に避難してもらったのは良い。しかし皆さんは着のみ着のままで避難した。役所・ボランタリーの方々が炊き出しを行っているが、今の世の中お金がなければ身動きできないことは誰でも判っているハズだ。仮設住宅の前に何故一時金をお渡しできないのか?浄財である義援金の配分に何故1月以上かかるのか(その配分について厚労省の立派な大会議室で御前会議をやる姿を見て被災者は何と思っただろうか)?「お恵み」「施し」意識があるのではないか?
●一時金の給付については、市町村レベルの行政機能がマヒしているため正確にできない、という弁明があるが、全市町村一律にやる必要はない。急を要するのだ。出来るところから行えば良い。また、非常時に正確性を求めても仕方がない。不正に受給する人などたかが知れている。雑損にすれば良い。行政は性悪説に則って処理していることは判るが、せめて非常時には性善説であって欲しい。
●仮設住宅が大量に必要として3月中旬には、住宅メーカー、建材メーカーに大号令が下され、4月初旬には、その準備も整備された。しかし、土地がない。各県も必死に探したのだろうが、財務省が国有地の活用を認めたのは4月22日のことであった。ついでに云えば避難所として空家の公務員宿舎の開放を云ったのは4月に入ってからのことだった。
●東電の対応で許せないことが数々あるが、その最たるものは、福島第一の修復に当っている作業員の環境である。4月21日のTVで見た光景は驚くべきものだった。作業員は、大部屋の寝袋でごろ寝、食事も満足なものではなく、風呂にも入れない。タコ部屋よりひどい。被曝量も心配だが、疲れとストレスが相当溜まっている。本社社員には補充がナンボでもきく、しかし作業員、技能者は掛け替えのない存在なのだ。こんな状態で作業に誤りが起きたらどうするのか?
●復興構想会議初会合の席で議長は復興税が必要と云った。まだ、どのような復興計画で、何年かかり、どのくらいかかるのか判らに段階で、財源を議論する不見識にはあきれ返った。財源がなければ復興事業を行わないつもりなのか? それとも、財源に応じたチマチマとした提言を行うつもりか?今回の大災害は国の姿、国の在り方を変革する大きなチャンスだということを重々認識し、議論して欲しい。
●復興税として消費税引上げを考えているようだが、これも前に書いたが、その前に政府だけで出来ることがある。不要不急な歳出を抑える・人件費を減らす(国会議員・公務員の削減も含めて・・・なお政党助成金4-6月分84億円が交付されたそうだ。1銭もなくて困っている被災者を差し置いて受け取る神経にはあきれ返るばかりである・・・)・埋蔵金を活用する・資産を売却する、などだが、その何一つ手を付けていない。
●どうも復興財源と財政再建財源とを混同しているように思われる。復興資金は一時的な費用である。財政再建は恒常的なものである。それを混同している(ように見せかけている)。国民への詐欺である。
(また厚労省も社会保障費の圧縮、例えば年金の引下げ、医療負担の引上げなどの検討を公表したが、議論すべきというのは正論だが、この非常時に云うべきことだろうか?それでなくとも今日本は縮こまっているのだ。時と場合を考えてものを云うのが大人だ。)
●景気は大きく落ち込んでいる。部品・資材ネックによる生産縮小、余震・放射能不安からの消費縮小。だとすれば、増税など考える前に景気刺激策を打つべきだ。今の日本は「糖尿病患者が結核に罹った」状態だ。糖尿病のためにはカロリーを控えなければならないが、結核のためには栄養を十分に採らせなければならない。結核が治ってから慢性疾患の治療にかかるのが手順ではないだろうか。
等々、書き出したらきりがない。では優先順位は誰が付けるのか、それこそが国のリーダー、企業のリーダーの役割と考える。細かい事例については現場が行えば良い。リーダーは優先順位の基本理念を示し、あとは現場の判断に任せる。そして間違ったら責任を取れば良い。大きな方向性と企業価値観(倫理観)を示し、社員(国民)を活気づけ・やる気を引き出す、それがリーダーの役割であるとは、ジャック・ウェルチ前GE会長の言であった。また、ピーター・ドラッカーは「効率良い企業の経営者が備える8つの共通項」として、次のように云っている。
①彼らは「何がなされなければならないか」を問う
②彼らは「企業にとって何が正しいか」を問う
③彼らは「問題点よりも機会」に焦点を当てる
④彼らは「生産的な会議」を主催する
⑤彼らは「行動計画(アクションプラン)」を作り上げる
⑥彼らは「決断」に責任をとる
⑦彼らは「意志疎通(コミュニケーション)」に責任を持つ
⑧彼らは「俺」ではなく「我々」と考え「我々」と言う
拳々服膺してもらいたいものだ。
(2011年4月24日 記)