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首都機能を東北に

 東京大学の御厨教授は、東日本大震災について、「『9・11以前/以後』で、… 米国も世界も大きく変わった。それから10年後の2011年3月11日に発生した東日本大震災もまた、『3・11』として記憶され、日本と世界を大きく変えるきっかけとなるのではないか。」、そして、日本は「『戦後』が終わり、『災後』が始まる。」(中央公論5月号)と述べている。日本は、20世紀終盤から「日本のかたち」を変えるべく、経済や社会システムの改革について多くの議論がなされてきた。しかし、現実には構造改革は遅々として進んでいない。その間に、日本を取り巻く世界の情勢は大きく変わってきている。新興国の発展は著しく、昨年遂に、日本経済はその規模で中国に抜かれた。御厨教授の言うとおり、今日本はこの大震災を日本の構造改革、すなわち日本再生のきっかけとすることができるかが問われていると思う。 (理事 福島 一)

「復興構想会議」について、管首相は(その1)でもふれたとおり、「… 素晴らしい東北、日本を作っていくという大きな意味をもった復興計画を進めたい」と述べている。東日本被災地復興計画は、同時に日本の再生計画のきっかけとなるものでなければならないということだろう。人口の減少、少子高齢化、経済のみならず多くの分野におけるグローバル化の進展等の環境の中で、日本のかたちを変えていくには、教育制度、社会保障制度、医療制度等々多くの分野での改革が必要であるが、構想会議に求められているのは、国土構造改革のきっかけとなる指針、提案ではないだろうか。
これまでの国土計画では、国土の均衡ある発展をテーマとして、数次にわたり全国総合開発計画の策定が行われてきた。その結果、新幹線や高速自動車道等の整備が進み、製造業など一部の業種の企業の地方への立地は進んだが、多くの機能の東京への集中は治まらなかった。福島県や新潟県に東京電力の原子力発電所の多くが立地している背景には、東京への一極集中が齎す膨大な電力需要がある。
東京一極集中が進むのは、巨大な市場の存在、多種多様な機能の集中、首都機能、本社機能の集中、利便性の高い交通機関等々のメリットが、通勤難、交通混雑、高地価・高物価等々のデメリットに勝り、結果的に集中が集中を呼ぶ構造となってしまっていることにある。これまで、この集中を止めるべく首都改造計画や首都機能の移転・遷都といったことも検討されてきたが、横浜、埼玉、幕張等の東京圏内の業務核都市に一部の機能の移転は進んだものの計画倒れに終わっている。国会等の首都機能移転についても、平成4年に「国会等移転に関する法律」が成立し、平成11年には移転の候補地として「栃木・福島地域」、「岐阜・愛知地域」、「三重・畿央地域」の3地域が選定された。国会にも衆参両院に「国会等の移転に関する特別委員会」が設置され、大きな盛り上がりを見せたが、平成15年に、「移転は必要だが、3候補地の中でどの候補地が最適なのか、絞り込めない」という中間報告が衆参両院の「国会等の移転に関する特別委員会」で採択され、事実上凍結されてしまった。
 そして、現在は、国土構造再編の問題は「道州制」を中心に検討が進められているが、東日本大震災の復興をきっかけに、国会等の首都機能の移転を再度検討する必要があるのではないだろうか。それは、地震学の専門家により、首都圏において二つの大地震が懸念されているからである。一つは首都直下型のM7級の地震であり、もう一つは東海・東南海・南海連動型地震である。東海地震(M8級)に対しては、直前予知体制が措置されており、大規模地震特別措置法により地震防災対策地域に指定されている。東海地震の発生可能性は極めて高いと思われる。しかも、東海地震の発生は、しばしば東南海地震、南海地震と連動して超巨大地震となる可能性が高いと見られている。いずれの地震によっても、東京の首都機能や企業の中枢機能は大打撃を受けることになろう。
 構想会議の論議は、東日本大震災被災地の復興構想とそれをきっかけとした日本国土の構造改革にまで踏み込むことを期待されている。首都東京に大地震の可能性が高い以上、日本のガバナンス体制を維持するためには、再度首都機能移転の具体化に向けた論議を進めるべきではないか。首都機能移転の問題は、十数年以上国会や審議会で十分議論されてきており、時間を多く掛ける必要はないと思われる。復興構想会議で論議し、方向性を明確にして欲しいと思う。
 移転候補地としては、平成11年に「国会等移転審議会」が3地域を選定したが、「岐阜・愛知地域」や「三重・畿央地域」は東海・東南海・南海連動型地震で大きな被害を受ける可能性があるのではないか。一方、東日本大震災と同程度の地震が過去に起こったのは、約1150年前869年の貞観11年の大地震(M8.3以上)である。今後1000年程度の間は今回のような大地震の発生する可能性は低いと考えられる。その意味で、東北地方は首都機能移転の有力な候補地の一つになりうるのではないだろうか。
 構想会議には、被災地域を従来の姿に復旧・復興するという構想に終わらず、新しい日本のかたちの中で東日本の被災地域は生まれ変わり、再生するのだということを明確に打ち出すことを期待したい。

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