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大きな設計図が必要な時期(東日本大震災に思う⑦)

 大震災から1ケ月、そろそろ復旧の槌音が聞こえてきても良いはずだが、遅々として聞こえない。余震が多く作業の妨げとなっていること、被災地が500Kmにも渡り広範囲であったこと、大津波によって街が瓦礫の山となってしまったこと、思わぬところに液状化の被害が発生してしまったこと、そして、東京電力福島第一原子力発電所の事故という厄介なことが重なってしまったこと、などがその要因であろう。しかしそのことを考慮に入れても、政府の対応は迅速性に欠けている。震災発生直後の初動は確かに速かった。が、その後は指揮命令系統が乱れ、臨機応変とは程遠い対応のような気がする。政府は○○会議・○○対策本部と矢継ぎ早にいくつもの組織を作ってきたが、「会議は踊る」ならぬ「会議は狂う」になっているのではないか? 特に、お金が絡むとスグにストップ、未だ被災者の多くは段ボールに囲まれた避難所で集団生活をし、お金が無くて困っている。何故、資金源の話は後回しにしてマズ救済・復旧にかかれないのか、市民の浄財である義援金も未だに被災者の手に渡っていないとはどういうことか? ボランティア、企業の支援・努力など民間の動きで、何とか持っている始末だ。 (理事 早川成信)

 
 こうした中、菅政権は「復興構想会議」を発足、6月までに提言をまとめるそうである。この「構想会議」は一体どのような権限を持ち、どのように実行手段を担保して発足したのかは、未だに誰も判らない。いくつもある○○会議と同じ轍を踏まなければ良いがと危惧する。ただ願うことは、これだけの甚大な被害をもたらしたのだから、単に被災地の復興だけを考えるのではなく、またハード面での再興だけではなく、日本全体の在り方の再設計を考えてもらいたい、その一点である。
 それでなくとも我が国は(そして世界の多くの国も)①グローバル化の進展、②資源・環境制約、③情報化の進展、④高齢化(日本はその先進国にすぎず、欧米・アジア諸国も同様の傾向)、⑤所得格差ないし南北問題、(日本固有の課題としては)⑥人口減少、⑦膨大な財政赤字・公的債務、への対応を迫られている。地方の疲弊、産業の空洞化(職人不足なども含めて)、教育水準、なども含めれば、我が国は「やらなければならないこと」が山積みの状況だ。
 
 更に、今回の大災害で明らかになったこともある。
 ●過度の効率化・集約化には大きなリスクがあること。今回の大震災は幸か不幸か、今人口過密地帯ではなかったため、火災・倒壊ビルによる圧死は少なかった。が、3月11日の東京での帰宅難民の多さからすれば、これが首都圏で起きていたらとゾットする。首都圏一極集中の是正は急務である。(なお今だから云えることだが、日本は地震大国・四方を海で囲まれている、例え1000年に一度の大地震・大津波であっても1000年目が今日かも、という心構えと備えが必要だったのではないだろうか。)
 ●経済活動の面でも、過度の効率化・集約化がボトルネックになってしまった。被災地で生産されてきた一部の部品・素材の生産ストップで最終商品の生産に支障をきたしてしまった。かつて中国でSARSが発生したときに、集中のリスクが叫ばれた。国内においても同様なリスクが存在していたのだ。多極化・分散のシステムを考えるときである。原子力発電も「効率」という文脈からは是認されてきたが、放射能の危険性と裏腹の関係にあることが、国民の目にも明らかになった。電源の多極化・分散という視点から、反省の時期を迎えたと云えよう。
 ●現在の政治・行政システムでは限界があること。行政機能は全く逆転した。地震・津波発生から今日までの救済活動の主役は市町村単位であった。県は「空洞化」、単に情報収集、支援にも限りがあった。国は「座敷で戦争」、「法制・前例」主義で、事の重大さへの柔軟な対応ができなかった。現場に行って状況を的確に把握することすら行っていない。政治家は「お邪魔」な存在。視察に行っては作業の邪魔をし、この大惨事を「政争の道具」としている不心得者もいる。制度疲労。地方分権・中央政府の役割、政治の在り方など国の根幹にかかわる部分も再設計しなければならない時期にきたようだ。

 恐らく、これらの課題への解は「道州制」であろうか。国土をいくつかの大きな州に分け、各州の特質にあった経済・文化システムを作っていく。これを軸に、首都圏からの人口移動を促進する。財源も各州が手当てする。地方税の厚く、また自由裁量の余地を多くする。屋上屋の「県」はいらない。地域特性に応じた「郡・市」がキメ細かい行政サービスを行う。管首相が云っているコンパクト・シティを作り上げるのも一つのアイデアイアだ。国は「安全に関する事項」「外交」「企画」「国家財政・通貨」など極めて限られた機能にする。超優秀で少数の官僚に「天下国家」を考えてもらいたい。国家公務員の多くは州の公務員に転ずれば良い。国税は少なくし、国債の償還は「地方交付税」などを止め「地方からの上納金」で充当すれば良い。

他思いつくままに列挙するなら(浅学非才の素人だが・・・)
●規制の総見直し。民間の知恵と活力をフルに発揮させる必要がある。時代遅れ、不必要、為にする規制は止めにすべきだ。公共サービスの多くも民間に任せた方が良質で安価だ。
 ●国会議員数は半減以下。参議院の役割を「良識の府」に戻す。政治家には、あくまで個人の良心と信条で行動してもらうため「党議拘束」は禁止する。
 ●国土再設計のため「私権」の制限もある程度はやむをえない。優先順位も「民主主義」に従う必要がないかも知れない。100人おれば100の最優先があるのが常だ。
 ●先端技術を最大限に活用する。自然エネルギーは勿論のこと、ホームドクター制を担保する遠隔治療、在宅勤務、工場農園など広範囲で文明の利器を使わない手はない。
 ●TPP/FTAを推進する。日本国内で生産できないものが多くなる。国際間でのサプライ・チェーンを作り上げることも重要だ。
 ●企業の海外展開は加速化される。それを支えるインフラも充実すべきだ。いつまでも貿易収支の黒字が続く訳ではない。海外収益を稼ぐ所得収支で経常黒字を保つ時代に入ったと考える。
 ●・・・・皆で考えよう・・・
 
 乱暴な議論である。しかし、再設計は、「継続」「過去との整合性」ではなく「真っ更」なところから始めるべきと信じる。明治維新では廃藩置県・四民平等・産業革命・義務教育などを通じて欧米列強へのキャッチアップを行った。第二次大戦後は財閥解体・軍国主義廃止・農地解放などを通じて民主主義の徹底を行った。今回も全く別な発想あるいは少々乱暴な発想で、新しいシステムを作り上げる好機ではないだろうか。

 地質学の大家 島崎東京大学名誉教授によれば、余震が多いのは「今回の地震後、地殻は新しい時代に入り、新しい構造を造ろうとしている」ためだという。今回の大災害は、これまで先伸ばししてきた、課題に取り組み、地殻と同様に「新しい日本の構造」を造る「天の配剤」と考える。

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