ホーム > パートナーズ・ブログ >

GMの破綻に思う(その1)

 GMが米国破産法11条適用を申請した。1908年設立のビューイックを母体として合併・合併を繰り返し、世界最大の製造企業となったGMは、正にアメリカそのものであった。1931年から2007年まで76年間世界の自動車産業のトップ企業として君臨し、最高級車キャデラックは富の象徴であり、尻尾の長いシボレーはアメリカ若者のあこがれであった。創業者ウィリアム・デュラントの後を継いだアルフレッド・スローンの自伝「GMとともに」は経営論の教科書でもあった。そのGMが、誕生後わずか100年で栄光の歴史を閉じようとしている。
                                            (理事  早川 成信)

 振り返って、わが国には歴史の長い企業が多い。10年ほど前に話題となった「老舗企業の研究―100年企業に学ぶ伝承と革新」(横澤利昌編著;2000年3月;生産性出版)によれば、世界最古の株式会社は大阪の金剛組(589年飛鳥時代創業の建築会社・・・もっともその後経営不振から現在では中野組の傘下に入った)、世界最古の旅館は石川県の法師(718年創業)、世界最古の菓子会社は京都の虎屋黒川(794年創業)だそうである。上場企業をみても最古の松井建設(1586年創業)や住友金属鉱山(1590年創業)を別格にしても江戸時代や明治初期に創業となった企業が250社以上もある。

 もちろん、米国という国自体が建国してから220年程しか経っていないのだから、200年企業、500年企業を探すのはどだい無理な話である。しかし、米国で「企業の寿命30年」説が囁かれているように、企業に対する考え方、あるいは経営モデルの違いが、企業の寿命の違いに繋がっているようにも思われる。ややオーバーに云うなら、アングロサクソン・モデルと日本モデルの違いなのかもしれない。よく言われる相違点は以下のようなものであろうか・・・

              (アングロサクソン)   (日本型)
 経営に関する視点      成長市場主義  vs  安定志向主義
                  短期成果主義  vs  長期持続主義
                  改革主義     vs  改善主義(ないし妥協主義)
                  時価主義     vs  取得原価(ないし低価主義)
 商品への視点         供給者の論理  vs  顧客主義ないし市場主義
 労働者への視点       機能主義     vs  能力主義ないし同志主義
                  成果主義     vs  貢献主義
 社員の視点          個人生活第一  vs  会社人間

 最も日本的な経営モデルと思われる老舗企業の経営の特色として、前述の横澤氏たちの研究では、以下のようなものを指摘している。

①老舗企業は家訓を守る
 三井高利「売りて悦び、買いて悦ぶ」
 下村彦右衛門(大丸)「義を先にして利を後にするものは栄える」
 住友正友「一時の機に投じ、目前の利に走り、危険の行為あるべからず」
②老舗企業はその象徴としての「暖簾」を守る
 暖簾とは・・・信用の象徴 投資の象徴 人の和の象徴 である(京都府 1970年)
③老舗企業の基本は「顧客第一主義」
 (イ)過去・現在・未来の顧客を想定
 (ロ)従って顧客とは「全体的」なもの
 (ハ)双方向性(平等)(コラボレーション)
 (ニ)関係を最重視しネットワークを形成
④老舗企業は「社会的存在」を強く意識
 「売り手よし 買い手よし 世間よし」(三方よし の精神 近江商人)
 「地域社会」との共生を重視する
⑤老舗企業は「従業員重視」
 主従は一世、夫婦は二世
 丁稚制度は24時間教育・・・オン・ザ・ジュブ・トレーニング
 地域ぐるみの人材育成
 後継者・・・「必ずしも純血である必要はない」・・・養子縁組、使用人の抜擢
⑥老舗企業はリスクをマネージする
 リスクを生まず、リスクに陥らない経営体質をつくる
 才覚・算用・始末、 身の丈商売 財務の保守性
 攻めるより守り、勝ちより負けない、を重視
⑦老舗企業は革新する
 時代の半歩先を行く
 商品・サービスに関する顧客ニーズに対応
 販売チャネルを時代に合わせて変更
 本業の縮減を前提とする新規事業の確立
 家訓の解釈を時代に合わせる

 経営モデルの違いは、かなりの部分、文明論的な違いに基づくものではある。また、どちらが良いとかの問題でもない。しかし、日本企業の多くは、今後、好むと好まざるとにかかわらず多国籍化の道を歩みざるを得ないハズである。その際に、この経営モデルの違い、その根底にある考え方・価値観の違いをどう折り合いをつけていくのか、避けては通れないテーマである。GMの破綻を契機に「哲学的」な思考を行うのも無駄ではないだろう。

« 主要企業の株主配当状況(その3) | ブログトップ | 自滅する会社 »

 
Powered by Movable Type 3.36