2008年は歴史に残る年。07年初めごろから燻っていたサブプライム・ローンを起点としたグローバルな金融システム不安が、9月に臨界に達し金融恐慌に突入した。その影響で、年の前半と後半ではすべての景色がガラリと変わった。
㈱エグゼクティブ・パートナーズ
(理事 早川 成信)
I 金融恐慌の発生 ●9月15日を境に、金融市場は完全にマヒ、ドル資金の調達は極端に困難に
●“見えない恐怖”=何が危ないのか?誰が持っているのか?政府は最後には救済?
●市場は昨年初め頃から警告を・・しかし急には止まれない、ないしは、根拠なき楽観主義
(1)Investment Bankモデル(ないし強欲モデル)繁栄の要因
①ミクロ的要因
金融規制緩和・・金利自由化など⇒利ざやの縮小⇒利益確保の為の投下資金の巨大化
手数料率の低下⇒仲介業の魅力喪失⇒自己資金投下による利益確保
金融工学の隆盛・派生商品の登場
リスク分散技術(幻想?)=他人に転嫁=システム・リスクは分散されず
②マクロ的要因
先進国での投資機会の縮小・・・一方「既存資産への再投資」拡大・・M&A;LBO
プレーする市場は拡大・・・証券→商品→企業売買→銀行債権(ローンなど)
プレーヤーも拡大・・・ヘッジファンド;プリンシパル・ファイナンスなど
過剰流動性・・グリーンスパンの功罪?・・・景気後退による「過剰の吸収」が機能せず
「資金はついてくるもの」との安心感=バブル発生の下地
③モラル的要因
バンカーの消滅・・預金(あずかり金)=安定運用では十分な利益が出せないと思い込む
成果主義の蔓延・・他人の金でプレー・・・上手くいけば巨額な報酬
金融機関内での競争・・巨額な報酬を得る同僚への競争心
フィナンシャル・ゲート・キーパーへの過度の信任ないし言い訳
「公認会計士」「アナリスト」「格付け機関」・・・自己責任の放棄
行き過ぎた株主価値信奉・・・短期業績・短期成果を求める風潮
(2)活かされた経験 ・・・ とりあえず”地獄の釜の蓋”は塞いだ
①有事での見事な連携 ・・・各国中央銀行⇒G7⇒金融サミット⇒APEC
今回のイニシアティブは英仏 日独は追随 米は拒否権なし・・(表面上かも知れないが)
②何でもありの政策発動 特に米国
FRBによるCP買入れ;FRBの住宅ローン保証;FDICの銀行債務保証;シティ救済;MMF対策;ビックスリー救済?etc
③何年か後には再び”過剰流動性?” ・・・将来のことなぞ云ってられない
(3)投機の敗北・・証券化商品⇒株式⇒商品 全てのアセットへの投機は「行ってこい」
①過剰流動性の弊害 ・・・ しかし、モノの値段が永久に上がり続けることはない
②産油国、資源国の今後の姿勢 要注意
Ⅱ経済の行方
100年に一度の大津波・・・大地震(金融恐慌)のあとに大高波(景気後退)がくる
傷んだセクター=各国ともバブルに踊った金融・住宅・資源⇒共に踊った個人消費・輸出
経済のグローバル化 ⇒ 急激に・同時に大不況
(例)米国の消費後退⇒日本の自動車生産調整⇒日本での雇用調整⇒日本の消費低迷
現在は強烈な信用収縮 ・・・資本市場の機能マヒで銀行依存 世界的に高まる
(1)29年(大恐慌)との相違点
①「金本位制」から離脱しており、信用創造の足枷がない
②世界の連携 ・・・保護貿易・通貨切り下げ競争とはなっていない
③情報伝達が著しく早くなった⇒企業・個人が、同方向に一気に動くリスク・・・合成の誤謬
反面、対策の早さ・情報の正確さも保証・・調整は早期に終了か?
(2)エコノミストの見方
①多数説・・・”L字型” ないし ”フライパン型” ・・・ドンときて
大底は09年4-6月、しかし、本格回復は10年末ごろ・・牽引車がない
カギは米国住宅・・いつ価格が底打ち? いつローン需要回復? いつ販売が回復?
②超少数説・・・ 夜明け前が一番暗い ・・・全員が弱気のときが大底・・・
(イ)世界各国 何でもありの景気対策
オバマ新大統領の経済閣僚・ブレーン=現実主義者⇒超巨大な景気対策?
(ロ)新興国の内需ーインフラ投資と個人消費ーの強さ・・・ただしBICs
中国 4兆元(2年間)の景気対策・・・各年GDPの8%を投資
(ハ)石油、原材料、食品価格の急速な下落
消費者心理が冷えているときは効力少ないが・・・ジワット効いてくる
Ⅲ 株式市場の行方
①「10分の1の法則」は? ・・・株価は不十分だが「証券化商品」は十分
バブルの歴史=大投機が崩れたとき⇒値段はピーク時の1/10まで下落するが・・
②米国の株価サイクルの法則性・・・必ず、景気のボトムの4-6月前に株価は大底を打つ
仮に09年4-6月が景気のボトムとするならば・・・
株価のボトムは08年11月ー09年1月 ?
Ⅳ 企業収益の行方
①09年3月期は予想以上に悪い ・・最大の注目点はトヨタ
②10年3月期は予想以上に良い?可能性も・・・原材料価格の低下の効果は大きい
V 日本企業の再点検
①過去10年で体質は著しく強化・・・ROE/合理的企業行動/ガバナンス/株主重視etc
ROE=2.07%(00/3)⇒10.04%(08/3) これをデュポン方式で分解すると
売上利益率=0.65⇒3.71;総資産回転率=0.88⇒0.99;レバレッジ=3.62⇒2.72
上場企業の配当金 今期約6兆円;自社株買いは3.5兆円程度
M&Aは日常的な経営行動に 捨てる経営も一般化
②不況抵抗力は相対的に強い・・・過去の経験/オペレーション効率etc
③企業倫理感は相対的に高い・・・経営陣の報酬もケタタマシク高い訳ではない
従業員に我慢を強いるとき⇒その前に経営陣が給与カット、賞与返上などを・・・
④今後の技術革新=素材中心との見方多い・・・・日本の独壇場?
Ⅵ とはいえ・・・当面は “無駄を省いて” “将来に備える”
これから、地震と高波の影響が明らかに ⇒“マインド”は更に暗く ⇒実体経済“深刻に”
有事型の経営 特に財務・・「不況は企業を強くする」・・この2~3年若干バブったアカ落し
絶好のチャンスでもある ・・・“守る”も”攻める”も
①苦渋の決断 ないし 緊張感を持った経営
(イ)人員抑制 ないし レイオフもやむなし・・・公正な扱いが肝要
(ロ)高まる”経営者責任”追及・・・資本の論理は冷徹;株主の監視=株価も冷徹
②Cash is King ・・・フリー・キャシュウロー経営
③更なる「選択と集中」 ・・・捨てる経営こそ肝要
④とはいえ・・・80年代 ウォール街の経験 ・・・石油企業の買収多発
理屈=新規に油田を探索・開発するよりも;既に開発された埋蔵が、ウォールに安価で放置・・・千三つのリスク、長い開発時間も避けられる
世界の株式・・オン・バーゲンY歴史的安値圏 さらに円高・・
ただし、身の丈を越えて投資(投機?)はご法度・・・資金と人材;経営力
Ⅶ Beyond the Crisis
夜明けを迎えぬ夜はない
(1)マクロ面
①米国一極体制の終焉 ・・・・ 当面は三極体制
中期的には、ドル安へ・・・EUは自己完結型・・・アジアは? 日本は?
米国の「モンロー主義」傾斜の危険性も 資源バブルが剥げたロシアも要注意
②世界経済”成長初期から成長中期”へ
当面はかなりのデフレ圧力 しかし中期的には
資源インフレ から 穏やかな物価上昇(加工品価格の上昇)へ
③インベストメント・バンク・モデルの終焉 ・・・ 規制は強化へ
脱レバレッジ ; 実物経済の復活 (バーチュアル経済?の後退)
④アングロサクソン・モデル信奉の後退
「短期超高収益重視」から「長期安定成長重視」へ回帰 過度の成果主義も反省へ
(2)ミクロ面
①企業間格差さらに明確に・・これからの対応、体質強化努力(守りも攻めも)で明暗が
顔ぶれが変る可能性も・・「エクセレント・カンパニー」に選ばれた62社中1/4堕ちた偶像に
②産業の集約進む・・ほとんどの産業で2~3社寡占体制? その中でニッチ企業が高収益も
成熟産業の宿命 ・・・規模の利益? 残存者利益?
③日本企業の多国籍化 大きく進展・・・特に内需型産業 装置産業も
進出国の多様化;進出分野の多様化;共生型(ないし小判鮫型)進出も
④世界的な産業再編成・・これまでは欧米企業中心⇒日本・中国・インド、一部資源国企業も
石油/医薬品/空運/金融⇒自動車/素材/電機/機械/金融/食品/電力/通信etc
IIX 日本企業の課題 ・・・日本型経営モデルの再構築
①過度な成果主義・株主主権主義の反省 ・・・新しいガバナンス・モデルの必要性
②真のグローバル型企業に・・・日本の常識 ≠ 世界の常識
③倫理観・公正観に満ちた企業文化と人材育成が更に必要