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2009年 産業界の出来事 ・・・パラダイムの大転換と企業経営 ・・・その1

 深刻な信用収縮と世界中の企業の一斉の生産在庫調整で、急激に景気が後退する中で幕を開けた2009年も、年半ばには落ち着きを取り戻し、順調な景気・株価の回復をみて年を越そうとしている。各国協調での中央銀行・政府による金融緩和・景気刺激策が奏功した結果ではあるが、正にジェットコースターのような一年であったと云える。そこで、2009年に産業界周辺で起きた出来事を10選び、その意味するところを考えてみたい。名づけて「産業界10大ニュース」。  (理事 早川成信)

1 政権交代(9月)・・・パラダイム転換を象徴 
 1月に米オバマ政権が正式に誕生、10月には独で大連立が解消しキリスト教民主社会同盟中心の保守中道連立政権が誕生した。わが国では8月30日の衆議院議員総選挙で民主党が記録的な大勝となり、1993年の細川政権誕生以来16年ぶり、本格的なものとしては戦後初の政権交代となった。世界各国とも国民は閉塞感を強めChange変革を望んでいるようである。経済危機の元凶となった「行き過ぎた市場主義経済」への反省、格差の是正、環境保全、社会保障改革を望む声が強まっており、「所得の再分配」が共通用語となっている感すらする。政権交代はそのような世相の結果であったといえよう。

2 GMの破綻(6月)・・・強まる官の関与
 かつては世界最大の自動車メーカー、世界最高の経営として優良企業の代名詞であったGMも100年の歴史を閉じ、米破産法11条適用となり一時的に国有化、官主導の再生の道を歩むこととなった。わが国でも10月以降、官主導でJAL再生を模索している。昨年来すでに金融機関については世界各国の政府が立ち直りに深く関与しているが、企業再生にかかわらず、過度の市場主義経済体制への反省として、今後、民間企業の行動を監視・規制する傾向は強まろう。我が国での雇用制度の見直し・環境規制強化の兆しは、このような文脈において理解すべきであろう。

3 G7からG20へ(3月)・・・高まる新興国の存在感
 G7に新興国を加えたG20 (20ケ国・地域首脳会合・・・正式名称は「金融・世界経済に関する首脳会合」(Summit on Financial Markets and the World Economy))がすっかり定着した。今回の金融・経済危機からの逸早い脱出の要因の一つはBRICsをはじめとする新興国の力強い成長であった。BRICsに続きVISTA(ベトナム;インドネシア;南アフリカ;トルコ;アルゼンチン)やMENA(中東・北アフリカ11ケ国)などの新・新興国が「雁行」的に成長してきており、先進国の成熟化を埋めて余りある存在になろうとしている。

4 グリーンニューデール (1月)・・・高成長が見込まれる環境関連ビジネス
 9月の鳩山首相によるCO2 25%削減公約に続き、12月のCOP15(国連気候変動枠組み条約締結国会議)で米・中ともに削減数値を示し、地球温暖化対策を公約する。南北間の調整は残るものの、環境保全・回復は国際的な協調なしには解決できない問題であることが明らかになった。これをビジネス面に置き換えるなら、世界は太陽光・風力などの「再生可能エネルギー」開発を競い、水資源を含めた環境改善ビジネスは巨大なものになろうとしている。環境関連技術・省資源・省エネルギー・代替素材技術で優れる日本企業への期待は大きい。

5 金価格1200ドル超え(12月)・・・過剰流動性/資源価格再騰の象徴・・・投機は尽きない
 リーマンショック直後の08年11月以降、金価格が高騰している。その要因としては、
 仮説①金融危機は終わってはいない=非常時の金・・・ドバイ危機のように、忘れられていた「バブルの残り火」はまだ沢山あり、いつ発火しても不思議ではない。しかし「地域限定」に抑え込む術を世界の金融システムは学んだ。この説の説明力は1割以下であろう。
 仮説②過剰流動性による投機・・・世界の中央銀行は信用収縮・景気後退に対処すべく通貨供給を増やしており、過剰流動性は解消されていない。一方、金融商品や金属・穀物などの市況商品は規制が入りやすく、金はその不安が少ない投資対象である。投機資金が大量に流入して高騰を続けている。・・・最も説得力のある説といえよう。
 仮説③資源価格再騰・・・原油価格は70ドル半ば、銅も1700ドル前後と、景気回復=実需回復とともに資源価格が再騰している。・・・この説は説明力があり、今後注意すべきであろう。
 仮説④ドル暴落・・・今回の危機では米国の金融機関と家計セクターが最も深い傷を負った。結果として、確かにドルはゆるやかに下落している。しかし、個人消費の低迷から輸入が減速、経常収支の改善は顕著であり、一本調子のドル下落は考えにくい。
 なお、円は11月に14年ぶりの高値を記録したが、ファンダメンタルスを14年前と比較すると(イ)経済の潜在成長力は低下、(ロ)製造業の空洞化はさらに進んだ、(ハ)財政赤字、国債発行残高は空前の規模、(ニ)少子高齢化が急速に進行、など円高になる要因は少ないと思われる。消去法的に円がオモチャにされているのであろうか。

以下は、日本のミクロ面での出来事である。

6 企業収益は急回復(10月)・・・専守防衛が奏功
 2009年3月期は日立の7873億円赤字を筆頭に巨額な赤字企業が続出し、上場企業の1/3が赤字決算となった。しかし4~6月四半期決算から目に見えて回復しだした。(イ)在庫調整が一巡し操業度が上がった、(ロ)輸出を中心に売上が当初予想したより改善した、特に自動車・電機、(ハ)不採算工場の閉鎖、人員削減など生産体制の適正化が進んだ、(ニ)とにかくコスト削減に邁進した、特に販管費、(ホ)重石となっていた有価証券に関する損が減少した、などが収益回復の要因である。加えてキャシュフローの改善にも取り組み、設備投資の抑制、運転資金管理の強化、配当政策の見直し(減配・自社株買い抑制)などに加え、9月以降は大型増資が目白押しの状態となった。2010年3月期は円高・景気減速懸念などはあるものの順調な回復歩調をとるものと予想される。

7 三菱ケミカル 三菱レイヨンを買収(8月)・・・事業構造の転換進む
 三菱ケミカルHDは、かつての武田、東芝にも匹敵するような大胆な事業構造の転換を進めている。4月には塩ビなど二事業から撤退、5月にはナイロン撤退、旭化成とのエチレン生産統合などを矢継ぎ早に発表する一方、蘭DMSからポリカーボネート樹脂事業買収、アクリル樹脂世界首位の三菱レイヨンを傘下に収めるなど、コモディティ事業からの撤退と高付加価値分野の強化に取り組み、体制を強化した。「撤退」の文字が目立ったのも本年の特色である。日清紡―綿紡績生産の8割撤退、東芝―国内での携帯電話撤退、オリンパスー高成長事業である血液分析装置を米企業に売却し撤退、ホンダー米での二輪車生産撤退・・・・日本特殊陶業は値下げ圧力の強いインテル向けパッケージから撤退、など、収益性を重視した決断が多々みられた。

8 キリン・サントリーの経営統合(7月)・・・「枠組みを超えた」戦略提携
 強者連合。ビール・清涼飲料の雄キリン、ウィスキー・清涼飲料の雄サントリーではあるが、片や「公開企業」、片や「非公開の同族経営企業」、片やアグレッシブな経営で短期間に成果を上げてきた企業、片や何年もの赤字に耐えながらビール事業をモノにした「やってみなはれ」企業、企業文化が余りにも違いすぎるように見える。しかし、食品・飲料企業にとっては「国際化」は急務である。そこには資金量・販売網・人脈・人的資源など短期間には蓄積できない資源が要求される。これをお互いに補完するために、常識では考えにくい経営統合に踏み切ったように推察される。パナソニックと三洋電機の経営統合(12月からTOB開始)も太陽光発電・電池などの今後の最大の成長領域を補完する狙いであったと思われる。
 なお野村信託銀行が日興シティ信託銀行を買収、住友三井FGが日興コーディアル証券を買収・・・その余波で長年提携関係にあった大和証券グループとは「縁切り」に・・・など、グループの垣根を超えた統合、提携も進んだ。日本の業界構造は、90年代前半の第一波・・・鉄鋼・化学・紙パルプ・セメントなどの素材産業と銀行・保険などの金融業、90年代後半から2000年代前半の第二波・・・医薬品・小売・流通など、と経営統合・提携によって大きく変わった。今後、第三波として、業種を問わず、成長戦略の一環として「枠組み」にとらわれず戦略提携が進んでいくものと考えられる。

9 住友金属 インドで高炉建設を発表(4月)・・・日本企業の海外進出加速化
 海外進出はあらゆる産業に広まった。自動車・電機・事務機などの加工産業に加え、このところ、素材産業(日本製紙、昭和電工、住友化学、三井化学など・・・)、公益事業(三菱商事=スペインで世界最大の太陽光発電所、昭和シェル=サウジで太陽光発電、丸紅=AIUで水資源開発など・・・・)の動きが活発である。また、いわゆる国内型産業(食品・・・東洋水産・ヤクルト・カルピス・味の素など/小売・・・ユニクロ・無印・セブンイレブン・イオンなど/外食・・・吉野家・サイゼリア・ワタミなど/ヤマト=上海で宅急便/花王・ユニチャーム・ピジョンなど)も海外展開を強化している。経産省調べの海外生産比率は今のところ30%強だが、早晩50%を超えることとなろう。海外展開のもう一つの特色は、このところ進出地域が中国一辺倒から多様化していることである。09年最大の投資国はインドであった。パナソニックはバルカン諸国・ナイジェリア・トルコ・インドネシアなどを強化する計画を公表した。新・新興国の成長性を見越した動きが活発になってきたようである。

10 ヤマダ電機 街の電器店を系列化(9月)・・・成長戦略が見えない民主党政権
 政府によるデフレ宣言を待つまでもなく日本国内の市場は飽和状態にある。政府による重点産業の育成策が待たれるところだが、今のところ「環境・(住宅)・介護育児・農業林業・観光」などが話題にのぼっている程度である。もちろん、再生可能エネルギー、新素材・医薬医療などの高技術分野の成長性は高く、多くの企業が参入している。しかし、時代は「サービス産業」の高度化を期待しているようである。ユニクロ・ニトリなどのような「価格破壊・・・(古すぎる用語?)」のほかに、画期的な経営手法・オペレーションシステムを確立して、高生産性なサービス企業の輩出が待たれるところである。

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